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③看護師として「覚悟」「度量」「品格」

私がそのように気持ちを切り替えられたのは今思えば私の看護師としての経験に基づくものがあったからかもしれません。私は看護師として長く勤めてきました。とくに看護管理者となってから自分の中で大切にしてきたものがあります。それは「覚悟」「度量」「品格」です。とくに「品格」はすぐに身につくものではありません。私が後輩を管理者に育成するときにもいつもこれを心掛けていました。自分自身の中にある道徳や倫理や哲学が日ごろの一挙一動に現れるのです。それは誰がどこで見ていようが一貫して自分自身を律しているもののように思います。そんな思いが私に夫の介護をすると覚悟を決めまさせたのかもしれません。

私の覚悟に呼応するように10日前後から両下肢抹消部位の知覚が戻ってきました。そして言葉もわずかですが出るようになりました。それから手指が動くようになり、足指、足首、そして膝が動くようになりました。「もしかしたら自分で座ったり、自分の体を支えたりできるようになるかもしれない」。徐々に回復の兆しが見えてきて希望の光が射してくるようでした。全身麻痺になっていたことから考えると私にとっては奇跡的なことのように思えました。あの、手術直後に医師から「血栓溶解剤を最大にしてもよいか」と聞かれたときに「すぐにしてください」と即答したのは正解だったのだと思いました。

退院までの15日で夫はしゃべれるようになりました。こんなことを言ったこともあります。「お花畑のようなところを歩いていたら川が流れていたんや。そして川向うから自分の名前を呼ぶ声がして、思わずそっちへ行こうとしたよ。あのとき川を渡っていたら今はおらんかったやろうなあ」と。私は「なんで渡らんかったんや」とそのとき言いましたよ。それは半分冗談、半分は本気でした。それについては後で話します。