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⑨「離婚をしたい」と娘に告げる

看護師として患者さんに接することは慣れていました。しかし家族、しかも夫となると話は別です。患者さんならプロとして気持ちを完全に切り替えることができます。ですが長い夫婦生活の中には他人にはわからないいろいろな歴史があります。まだ娘が小さいころ、私は娘を連れて家を出たことがありました。小さな娘と部屋を借りて2人でしばらく暮らしました。それでも「娘が成人するまではなんとしても片親にさせない」と決心し、もう一度やり直しました。夫が手術後に意識が戻って「三途の川が見えた」と言ったときに「なんで渡らんかったんや」と言ったのもそんなことがあったからです。

その娘も結婚しケアマネジャーの仕事についていました。だから夫の状況もよく理解して手伝ってくれました。子どものころから私と夫のことをずっと見てきた娘です。結婚もして夫婦のこともわかる年になっていました。それでも娘にとって夫は子どものころにいつもニコニコして優しくしてくれた「お父さん」なのです。やはり父娘です。

けれども夫婦は他人です。私の思いは娘にはわからないところもあったようです。

排便のトラブルが何度も続いたり、私への暴言が続いたとき、とうとう我慢ができなくなりました。身も心もボロボロになり一度娘に「お父さんとはもう離婚したい」と涙をこぼしてしまいました。後にも先にもこのときだけです。

娘は驚き、ようやく私の気持ちを理解してくれました。

在宅看護ももう12年を過ぎていました。夫の要介護度は3のままでしたが、自分でできることはだんだん減っていきました。あとどれくらいこんな生活を続けることができるだろうと私は考えるようになりました。


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