救急病棟で頭部を含む広範囲の熱傷で運び込まれた患者さん。
溶けた皮膚は痛々しく、クリーンルームの中から「看護師さ~ん」と呼ばれても、忙しすぎて聞こえないふりをせざるを得ない場面もありました。
「看護師さ~ん」とたびたびの訴え
病院勤務の経験は数年しかない私ですが、それでも心に残る患者さんは何人もおられます。そんな中、今も忘れられないのは、救命救急の病棟で働いていたころ、頭部を含めた広範囲の熱傷で運び込まれた患者さんのことです。
その方は、顔の皮膚も溶けて見るからに痛々しい姿でした。クリーンルームにおられたのですが、常に透明シートから私たち看護師の動きを目で追っておられ、時折、か細い声で「看護師さ~ん、水をください」「看護師さ~ん、体が痛い」と、訴えがありました。
「1対1の看護がしたい」と思うように
時間に余裕があるときは、手厚く対応できるので訴えも少ないのですが、夜間緊急が入ったり、重度の方が多い時などはどうしても後回しになり、常に 「看護師さ~ん」「看護師さ~ん」という声が聞こえます。本当はすぐに対応したいのだけれど、どうしても「ちょっと待ってくださいね」と言ってしまうこと もあり、すると「看護師さ~ん」という声は少しずつ大きくなります。
きっと経験を積んだ看護師なら、こんな場面でも待たせることなく対応するスキルをお持ちだと思います。しかし未熟だった私はどうすることもできず、 聞こえないふりをして振り払うしかなかったのです。病棟で看護していると、そんなことは多々あって、病院を辞めて「1対1の看護がしたい」と思うようにな りました。
「常に先を見る」ということを大切にしたい
今になって思えば、想定される訴えを見越した対応や、他のスタッフへの協力依頼など、自らやらなければいけないことを果たしていない私が悪いのです が、当時は環境のせいにして自分を正当化していたと反省します。今もあの声や、うつろな眼差しがよみがえってくるたびに、患者さんには本当に申し訳ない気 持ちでいっぱいになります。
訪問看護は1対1の看護です。とはいえ、病院のように「看護師さ~ん」と呼ぶ声は届きません。だから目の前の患者さんに対して、次の訪問までの時間を見越して、必要なケアを推測する力を育てなければいけないと痛感しています。
「言われる前に相手が言いたくなることを推測して行動する」これは、看護場面に限らず、すべてにおいて大切にしたい事柄です。