スタッフの失敗をも笑顔で支える所長を目指して

訪問看護ステーションに就職し、初めて一人で訪問に出かけたとき、大失敗をしてしまいました。
所長は焦る様子も見せずに「かまへん。かまへん」と笑顔。私もそんな度量の大きい所長を目指したいと思っています。

初回の訪問で大失敗・・・涙

訪問看護に携わったのは、知り合いに声をかけていただいたのがきっかけでした。訪問看護の実習を経験していなかった私は、何もわからないままに先輩の訪問看護師と一緒に訪問し、数日後には一人で訪問することになりました。

私のために新車を準備していただき、いざ出発!忘れもしない、その日は大雨が降っていました。ご自宅に到着し、無事に看護を終えて帰ろうとしたので すが、大雨で視界がよくありません。バックで方向を変えようと切り返した瞬間、ドスン!という嫌な音…なんと、新車の後ろをいきなりぶつけてしまったので す。

「どうしよう…」頭の中は真っ白。でもとにかく次の訪問先に行くしかなくて、2件目の訪問先に移動して看護は無事終了。利用者さんのご家族も笑顔で送り出してくださったのですが…ぶつけて大きく凹んだ車は、どう頑張っても治るわけがありません。

所長の「かまへん。かまへん」に救われる

真っ白になった頭で「所長に何て言おう…」と思いながら運転をしていると、なんと!!!路肩に車輪が落ちて側面にも傷をつけてしまいました・・。
今もその瞬間のことは鮮明に残っているのですが、顔を引きつらせてステーションに戻った私を、所長は満面の笑みで迎えてくれました。勇気を振り絞って新車 をぶつけたことを告げると「かまへん、かまへん!怪我がなくてよかった」と笑顔でひとこと。そして車の傷を確認する様子もなく、訪問時の看護の話を聴いて くれました。
今思えば「何てことしてくれるの~」と内心思ったはずです。新車を初日にぶつけたのですから・・。でもそんなそぶりを微塵も見せず、私と利用者さんのことを気遣う所長の度量を、今になって「すごい」と実感するようになりました。

いつも所長に助けられて訪問に慣れていく

失敗はそれだけではありません。初めて所長と訪問したとき、意識のない患者さんは目の前にいる。でも、心電図モニターやパルスオキシメータがないた め「果たしてこの人は生きているのか?」と不安になり呆然と立ち尽くしました。そんな私に所長はひとこと「手で触れてごらん?」と。
大学病院で育った私は、重症患者に慣れすぎていて、器械がないと判断できない癖がついていることを実感しました。今思えば情けない笑い話ですが、そんな私に、所長は呆れたことだと思います。
また、点滴を持っていくときは、所長が「ダメやったら電話して」と必ず声をかけてくれました。相当不安だったのでしょうね…。そしてやっぱり失敗。所長を 呼び出したことは一度や二度ではありません。そんなときも、所長は「かまへん。かまへん」と、いつも笑顔で助けてくれました。

笑顔でスタッフを受け入れられる所長をめざして

そしてやっと訪問にも慣れて、 戦力になったやころ、看護基礎教育のカリキュラムに在宅看護が導入されることになり、恩師から、教員にならないかという誘いがきました。悩んだ末に教員へ の道を選んだ私は、勇気を出して所長に告げると「辞めてほしくはないのだけれど、キャリアアップの退職なら止められない。頑張っておいで!!」と、快く 言ってくださいました。
今でも時折所長のことを思い出しては、どれだけ無駄な経費を使わせたのか、どれほど身勝手なスタッフだったのかと、申し訳なく思うばかりです。いつも「か まへん。かまへん」と言ってくださる笑顔の裏で、不安や怒りがあったことだと思います。それでも私を、おおらかに受け入れてくださった所長を師と仰ぎ、私 もそんな所長を目指して頑張りたいと思っています。