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⑩特別養護老人ホームへ

そうしているうちに私は73歳、夫は76歳の高齢の域に入っていました。

「このままでは夫も私も共倒れになる」、私はそう思って夫には特別養護老人ホームに入ってもらおうと決意したのです。そのころずっと夫を担当してくれていたケアマネジャーの「もうそろそろ在宅ケアも限界やね」と言ってくれたことも背中を押してくれました。夫にそれを告げると「お前は俺を捨てるのか」と怒りましたが、でも私はもうそのときが限界だったのです。娘も何度も家に来て夫を説得してくれました。了承してくれるまでに時間はかかりましたが入所の日が決まりました。なかなかベッドの空きがなく申し込みから2年、夫が倒れてから12年が経っていました。

入所の日には娘も来てくれて、いっしょにたくさんの荷物を運びました。夫から私へのねぎらいの言葉は一言もありませんでした。でも娘には「お母さんには迷惑を掛けた」と言っていたと後から聞きました。

友人は「よく12年も我慢できたね」と言われました。看護師だから?いえ、それはありませんでした。夫婦としてのご近所づきあいもありましたし、夫のプライドもやはり考えました。夫の介護の苦労話を友人にしても何かが解決するわけでもなく言う必要もないと思っていたのです。

夫を施設に預けることに最初は罪悪感が少しありました。しかしその特養のスタッフが高次脳機能障害についての知識が豊富で、患者個人を尊重する姿勢を見て安心しました。デイケアではあれほどトラブルを起こしてスタッフを困らせた夫でしたが、この特養に入ってからは信じられないほど態度が変わり穏やかな生活を送るようになりました。驚くことに苦情の電話もただの一度もありませんでした。やはりスタッフの専門性が高いことが患者にいかに良い影響を与えるかということを実感しました。あらためて現場教育の重要性を再認識させられたのです


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