公開日

⑧昼夜逆転の生活と転倒

デイケア以外、つまり家にいるときはずっとテレビを見ています。すると生活のリズムが崩れます。人間は昼夜逆転の生活になると体の恒常性を保てなくなり、日中はボーっとすることが増え、せん妄などの障害も発症しやすくなります。

私は、夜間はテレビを消して睡眠をするように言いましたが、私が部屋を出ていくと夫はすぐにまたテレビをつけるのです。何度もそのことで口論にもなりました。しかしやめることはありません。案の定、頭がぼんやりするのか家の中で転倒を重ねるようになったのです。

トイレに行くときに手すりをつかむだけでなく杖を使ったほうがいいよと言いましたが、夫は杖を使うことも嫌いました。そのためバランスを崩して転倒することが増えたのです。ひどいときは1日に8回も転倒したこともありました。

ある夜、寝ていると「ドスン」と大きな音がして「助けてくれー」とうめき声が聞こえました。驚いて見にいくと夫が廊下で倒れていました。トイレの帰りに転んだのです。大きな体の夫がひっくり返ってカメのように手足を動かしているのです。私の力では到底起こすことなどできません。両足を引っ張って廊下を引きずりながらなんとか部屋まで連れて帰りました。もうヘトヘトでした。

そんなこともあり、夫はとうとう肋骨を骨折してしまいました。ますます運動もせずに1日中テレビを見て過ごす日々が増えました。80キロあった体重も60キロほどに落ちました。その姿に私はこの生活がいつまで続くのかと心が荒みはじめました。家庭内の介護疲れで言うことを聞いてくれない家族に対して介護者が暴力をふるうというニュースをよく聞くことがありましたが、私は自分がそういう立場になってその気持ちがよくわかりました。けっしてきれいごとでは済まされない状況を身をもって体験しました。


元看護部長が家族を介護して分かったことに戻る