多くのみなさまは「親の介護が必要になれば、どんな状況になるのだろう?」そんな漠然とした不安を抱えながらも、日々お仕事が忙しく、その時の準備をされていないことだと思います。
このたびは、そんなみなさまに、気持ちの準備だけでも整えていただきたいと考えて、お母様の介護を経験されたNさんにインタビューを行い、体験談を語っていただきました。
地域全体が協力して、介護問題を解決できる世の中になればいい
取材協力)Nさん(仮名)・53歳(兵庫県在住)
他人事だと思っていた介護問題が、ある日突然浮上
金本)お母様の介護をするようになった経緯をお聞かせください。
Nさん)母は10年ほど前に転倒・骨折して入退院を繰り返すうちに筋力がどんどん低下し、日常生活が困難になりました。活動性が低下すると同時に気力もなくなり、様子がおかしいと思って検査を受けたところ、アルツハイマー型認知症と診断されました。そして私と姉が交互に実家に通い、母の介護をする生活が始まりました。
母は父と2人暮らしでしたが、父も高齢で身体が思うように動きません。私と姉だけでは到底支えきれないので、ケアマネージャーさんから紹介されたヘルパーさんに、入浴介助や家事などをお願いしていました。
体の負担よりも大変のは家族関係がぎくしゃくしたこと
金本)実際に介護をしてみて、大変だったのはどんなことですか?
Nさん)父は知らない人を自宅に入れて入浴介助をしてもらうことに、なかなか慣れることができませんでした。「ヘルパーさんが来るから掃除しないといけない」…など、気を遣い過ぎてストレスを感じていたようです。そして母が認知症になったことも受け入れられず、落ち込んだり、ふさぎ込んだりするようになりました。父が弱音を吐く姿なんて見たことがなかったので、私も姉もどう関わっていいのか分からず、戸惑いました。
金本)慣れない介護となると、体力面の負担も大きかったのではないでしょうか?
Nさん)私の場合は体力面での負担よりも、これまで目を逸らしていた家庭内の問題や身内に対する本音に直面せざるを得ないことの方が、大変に感じられました。特にしんどかったのは、介護を分担するにあたって、姉との関係が次第にギクシャクしてしまったことですね。
もっと早く訪問看護を知っていたら・・・
金本)お母様は訪問看護を利用されなかったとお聞ききしています。
Nさん)ケアマネージャーさんにケアプランを見せてもらった時、訪問介護のことしか記載されていませんでした。身内に医療職の人が居なかったこともあり、看護師さんが自宅に来て看護してくれるサービスがあるなんて、思いもしませんでした。今振り返ってみると、ヘルパーさんではなく、訪問看護師さんに早期に介入してもらっていれば、母の認知症ケアや父の心理的サポートという面で心強かっただろうな、と思います。看護師さんに相談に乗ってもらえるとなると、父も部屋の片付けなど気にせずに安心して頼ることができたはずです。
金本)現在、お母様はどちらで療養されているのですか?
Nさん)数年間に渡って自宅療養を続けてきた母ですが、肺炎になって体調を崩したことをきっかけに胃瘻を造設し、現在は施設に入所しています。胃瘻の造設をするかどうかの決断も、施設に入所するかどうかの判断も、家族の状況をよく知る訪問看護師さんに相談できていたら、もっと冷静に話し合うことができたのかな、と思います。
自分の生活〟と〝親の介護〟を両立させる手段を考える
金本)お母様の介護を体験してみて、これからの在宅医療・介護にはどんなことが必要だと感じますか?
Nさん)医療や介護の知識を持たない人でも、自分や親が心から望む生活をちゃんと選べるように、もっとわかりやすい形で知ることが出来ればいいですね。お金を払ってサービスを利用することに罪悪感を持ちすぎると長続きしないので、上手にサービスを活用しながら自分の仕事や家庭生活を守ることが介護のコツと言えます。
取材を終えて・・・
訪問看護師さんに来てもらいたい!と、利用者さんの方から求められる存在に
「訪問看護」という言葉自体、知らなかったというNさん。「看護師の職場=病院・クリニック」というイメージが、まだまだ根強いことを痛感しました。(※訪問看護師の数は看護師全体の3%未満 平成24年の看護職員の現状と推移 厚労省より)ケアマネージャーさんに提案されたサービスが全てと思って、「他の選択肢があるのでは?」という考えに至らないケースが多いのかもしれません。
介護には答えがないので、家族で本音をぶつけ合って、自分たちで導き出していくしかないのですが、このプロセスに訪問看護師が関わることに大きな意味があると思います。訪問看護師は利用者さん本人だけではなく、家族全体の健康状態まで視野に入れて〝望む生き方〟や〝望む最期〟を整理し、その人に必要な医療をアドバイスする役割を持っています。
医療処置がない場合でも身近な相談相手として、利用者さんの方から「うちにも訪問看護師さんに来てもらえますか?」と求められるように、訪問看護師の役割をもっとアピールしていきたいと思います。
最後になりましたが、Nさん、今回は取材にご協力いただきまして、ありがとうございました。